当院のスタッフの一員、
供血犬の凛(リン)の歯石が目立ってきたので、
歯科処置を行いました。
当院では歯科処置は必ず全身麻酔下で行います。
麻酔をかける前に血液検査で状態を確認後、
人工呼吸、心電図モニター、点滴を行い、
麻酔管理をしながら処置を行います。
全身麻酔を行わずに、
抜歯鉗子(ペンチのような器具)で歯石を剥がすだけの処置を行うと、
歯は綺麗になったように見えても、
歯の表面はザラザラで、
より歯垢・歯石が付きやすい状況になってしまいます。

今回の凛の右側の上下の歯。
上の臼歯を拡大すると…。

歯石が歯の表面を覆っていることが分かります。
まず抜歯鉗子で歯石を大まかに除去し、
その後、
以前にご紹介した歯科ユニットでスケーリングを行います。
歯の表面はもちろん、
歯肉と歯の間の歯周ポケットの歯石も除去します。
その後、ポリッシングブラシとペーストを使って、
歯面清掃(ポリッシング)を行います。
全身麻酔をかけなければ、
安全にスケーリングとポリッシングができませんし、
それらの処置は麻酔なしでは痛みが伴うので、
その後のホームケアをして頂く時に、
口を触るのを嫌がるようになってしまいます。

この処置であれば、処置開始から終了まで数十分で終わります。
これくらいの時期に処置をしておくことが理想的です。
歯周病が進行してくると、
歯を支えている歯槽骨が溶けてしまい、
歯がグラグラになってしまいます。
そうなった歯は元の状態に戻すことは難しいため、
抜歯が必要となる事もあります。
抜歯する歯が多い分だけ麻酔時間は長くなり、
その仔の体への負担も大きくなります。
最近処置を行った重症例の仔です。
見た目も明らかに悪いのですが、
口臭もかなりの悪臭になります。
歯肉が炎症を起こして真っ赤になってしまい、
歯石を除去してみると、
歯肉が後退して歯根が露出してしまっている状態でした。

この仔の処置後です。
ほとんどの歯を抜かなければならない状況でした。
抜歯が必要な歯であっても、
まずはスケーリングを行い歯石を除去してから抜歯し、
その後、歯槽骨を削って滑らかにし、
歯肉を吸収糸で縫合します。
吸収糸は約2週間ほどで自然に溶けるので、
抜糸の必要はありません。
ここまで重症の症例になると、
処置時間は3時間に及ぶ事もあります。
歯が無くなるとご飯を食べられなくなるのではないか?
心配されるご家族の方が多いのですが、
犬や猫の歯は裂肉歯と言って、
獲物を捕まえ、
肉を切り裂いて飲み込むための歯です。
人は食べ物を奥歯で磨り潰すように咀嚼しますが、
犬や猫は飲み込むサイズにしてしまえばOKなので、
ドライフードや缶詰を飲み込めさえすれば良いわけです。
ドライフードを丸呑みすると消化しにくく、
そのまま吐き戻す事もありますが、
食べられないということにはなりません。
歯がなくなってしまうと食べられなくなるので困ると思って、
なかなか処置に踏み切れないというご家族もいらっしゃいますが、
先ほど述べた通り、
歯周病が進行すると処置時間が大幅に長くなります。
ミニチュア・ダックスフンド、T・プードルなどの、
小型犬種は顔や顎に対して歯が大きいので、
歯周病が重症化しやすく、
歯周病が進行して歯槽骨が溶け、
下顎骨が脆くなり、
ちょっとした衝撃で折れてしまう(病的骨折)
ということもあり得ます。
歯石除去のみ(予防歯科処置)で終了することが出来るうちに処置をしておけば、
その仔の体の負担も、
そして費用的にも軽くすることができます。
3歳までにほとんどの犬猫たちが歯周病にかかると言われています。
すべての年齢の子に歯科検診をお勧めしていますが、
シニア年齢である7歳以降は、
年に一回以上の検診が望ましいと考えています。
と、ここまで書いてきましたが、
お知らせがあります。
歯科処置を担当しているゆか先生が、
都合により、
来年3月頃まで歯科処置をお休みさせて頂くことになりました。
診察時の検診や口腔内チェックなどは行いますので、随時ご相談下さい。
皆様方には大変ご迷惑をお掛けしますが、
何卒ご理解の程、宜しくお願い致します。