慌てないで!
ある日の夜、終業時間が近づき、
掃除をしていた時に電話が鳴りました。
ご家族;「釣りに来ていたのですが、犬が釣り針を飲んじゃいました…。」
釣り好きなご家族がいるお家に飼われいる犬猫あるあるです。
夜釣りに犬を同行させていて、
餌がついた釣り針を飲んでしまったとのこと。
ここで大事なのが、釣り糸がついているかどうか。
針だけを飲み込んでしまうと、
レントゲンには綺麗に写るのですが、
食道や胃に入ってしまった小さな釣り針を目視で探すのは意外と難しいです。
糸がついた釣り針であれば、
糸を引くことによって刺さった釣り針の場所が予測しやすくなります。
ホース状の管(病院では気管チューブを使用)の内腔に糸を通し、
管を進めていくと釣り針の刺入部位に突き当たり、
そのまま管を押し込めば針が外れるというテクニックもあるそうです。
ただし、釣り針のかえしによって、
刺さった箇所の組織へのダメージは免れませんが…。
で、電話の続き。
私;「釣り糸は残っていますか?」
ご家族;「あ、切ってしまいました…。」
あちゃー、切ってしまったかー。
ご家族;「でも、糸は見えています。」
私;「糸を飲み込んでしまって見失わないように気をつけながら連れて来て下さい。」
そして約20分後に来院されたので見てみると…。
良かった!糸が出ている!
ご家族の話によると、
仕掛けが3つ付いていて、
そのうちの真ん中を食べてしまったと思われるとのこと。
よーく見てみると、
針が上唇に刺さって貫通し、
先端のかえし部分が見えています。
しめた!これは釣り針事故でもラッキーなパターン。
針を飲み込んでしまって食道や胃に入っていると厄介ですが、
ここで止まってくれていれば楽勝です。
しかし、ここで急がない。
もしかしたら釣り針は1つだけではないかもしれないので、
レントゲン検査で他に釣り針がないかを確認します。
レントゲン撮影したところ、
口唇の針は綺麗に写っていました。
食道、胃内に針はなさそうです。
良かった!
さて、これで口唇を貫通した釣り針を外すのみ。
この釣り針にはかえしが付いているので、
引き抜こうとするとかえしが引っかかってしまいます。
そこで…。
青矢印のところ(シャンクというそうです)で釣り針を切り、
赤矢印の方向へ進めると、
引っかかることなく釣り針が抜けることになります。
最初は左側のニッパーでトライしましたが、
硬くて切れない!
そこで、右側のワイヤーカッターに変更。
これで簡単に切ることができました。
外した釣り針がこちら。
青矢印部分で切り、赤矢印方向へ進めて抜く。
口唇の傷口も最小限で済むので、
縫合することもなくこれで終了です。
今回は針が複数ついているタイプの仕掛けだったとのことで、
口唇に刺さっている釣り針以外にも針があって、
レントゲン検査や釣り針を切る時に暴れてしまい、
傷口が広がったり、
残っている釣り針をさらに奥へ飲み込んだりしないよう、
まず鎮静作用のある注射を筋肉内に射ち、
脱力している状態で処置を行いました。
処置終了後に拮抗剤を注射すると、
10分くらいでほぼ普通通りに戻ります。
今回の方法は釣り好きな方には常識的な対処法かもしれませんが、
釣りを知らない人は慌ててしまうのではないでしょうか。
海岸を散歩中、
捨てられていた釣り針を飲み込んでしまった、
口唇に刺さってしまった、
という時には、
慌てずに今回の対処方法を思い出して欲しいと思います。
今回の症例はご家族に許可を頂いて掲載しております。
他の飼い主の方々への注意喚起のために掲載しても良いですか?
とお尋ねしたところ、快諾して頂きました。
ご協力ありがとうございます!