皮膚型リンパ腫


10月末、とても皮膚を痒がるとのことで、

高齢のゴールデン・レトリバーが来院されました。

痒みが出てから治療を始めていたそうなのですが、

なかなか改善しないとのことでした。

初めて見た時、

あまりに皮膚の状態が悪かったので、

これは治療が難しそうだな…。

という印象を受けました。

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左側の顔面。

脱毛と皮膚の発赤、色素沈着(黒色の斑状部分)。

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右体側。こちらも脱毛が目立ちます。

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尾側から見た臀部と大腿部。

紅斑と言われる真っ赤になったひどい皮膚炎と、

皮膚表面に硬い結節を形成し、

ボコボコになっています。

今まで私は経験したことがなかった症例ですが、

皮膚型リンパ腫という病気は皮膚がベタベタになると

ゆか先生から聞いていたので、

もしかしてこれか?と思いました。

ゆか先生にも確認してもらったところ、

確かにその疑いが強いとのこと。

皮膚の検査をしたところ…。

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ヒゼンダニと呼ばれるダニが大量に出てきました。

草むらに潜み、動物の体表面に寄生して血を吸うマダニとは違い、

このヒゼンダニは顕微鏡で観察しないと分からないほどの小ささで、

皮膚の角質にトンネルを掘って生活しています。

このダニによる感染症を疥癬(かいせん)と言います。

顕微鏡の一視野にこれだけのヒゼンダニが一度に見られたのは初めてでした。

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楕円形のものはヒゼンダニの卵です。

ヒゼンダニは野良猫や外に出る機会のある飼い猫の額や耳に

病変を発生することが多く、

年配の方が鹿児島弁で、

「先生、コセができた。」とおっしゃって連れてこられます。

額にかさぶたが付いて痒そうにしている猫は、

このヒゼンダニが寄生していることが多いように思えます。

このダニに対する注射治療を行ない、

抗生剤と痒み止めのお薬を処方したところ、

翌週には痒みがなくなったとのことでしたが、

皮膚の真っ赤な状態は変わらず。

やはり疥癬だけでこんなに皮膚がひどくなるのは考えにくいと思い、

皮膚の一部を切り抜き病理検査を依頼したところ、

悪性リンパ腫との結果が返ってきました。

リンパ腫は、体の免疫を担うリンパ球がガンになる病気で、

体表のリンパ節が腫れるもの、

消化器のリンパ節が腫れて下痢や嘔吐などの消化器症状になるもの、

胸のリンパ節が腫れて呼吸困難や貧血状態になるものなど、

今回の皮膚型も合わせて4種類のタイプに分類されます。

犬では体表のリンパ節が腫れる「多中心型」と呼ばれるものが多いのですが、

この仔は皮膚型の悪性リンパ腫でした。

治療としては、抗がん剤やステロイド剤を使用していく方法がありますが、

抗がん剤を使用してもあまり長くは生きられず、

ステロイド剤のみで治療すると、

1~2ヶ月しか生存できないかもしれないというデータがあり、

ご家族とも協議したのですが、

ステロイド剤のみで対症療法していくことになりました。

ステロイド剤を飲み始めてからは、

皮膚表面の硬い結節は残るものの、

紅斑が引いていきました。

元気や食欲も出てきたので、

ご家族も私も、これはもしかして年を越せるかも?

と思っていたのですが、

治療を始めてから2ヶ月経たない今月始め、

急に食欲がなくなり、

残念ながらその翌日、

穏やかに息を引き取ったとのことでした。  

当院に来院されて早々に亡くなったことは悔やまれますが、

最初に来院された時は、

とにかく痒みがひどかったので、

その痒みを少しでも抑えることができ、

僅かながら穏やかな生活ができたことだけは幸いだったと思いました。

また次に同じ症例が来院された際には、

対応が遅れないようにしなければと痛感しました。